2003年08月28日
思い出に降る雨 [ 「その花の名前は」番外編 | ファンタジー ]
ファランドール 番外編
東條 トモ 著 【SAKURA Pearls】
前回の更新同様、作品一覧ページを眺めていて、「タイトルの言葉の響きが好き」だと感じ、読みに行かせて頂きました。
柔らかな一人称の語り口で紡がれる言葉は、内面描写に富み、言葉を目で追っていくだけで、語り部である人物の心の傍に寄り添っていく感覚を覚えます。
短編という枠組みの中の作品ですが、『本編のある作品の番外編』であるからか、世界観がすんなりと頭に入ってきて、この短編の先にある物語はどんな物語なのだろうかと、非常に興味をそそられました。なによりも、語り部となっている人物に共感することで、彼の未来を自分自身も見たいと、そう思ってしまうように感じます。
『思い出』という、すべての人が持っている、幾分か切ない響きを持つ記憶は、対象が大切なものであればあるほど、消えたり失くしたりはできないものです。大切なものを失くしてしまった過去は誰にでもあるもので、だからこそ、大切なものを失くしてしまったこの作品の語り部である彼の気持ちが、自分自身の過去の思い出と共感しあうのであろうと思います。
何かをなくしてしまって悲しい――そこで立ち止まるのではなく、静かに前を向いて歩いていく彼の姿は、とても尊いもののように感じます。
彼の未来がどうぞ幸せなものでありますようにと願いながら、本編の扉を開きたくなる、そんな作品です。
2003年06月19日
忘れじの海 [ 「その花の名前は」番外編 | ファンタジー ]
ガーラント物語シリーズ 番外編
桜川 夏 著 【幻影樹】
作品一覧ページを眺めていて、一番最初に「あ、タイトルの言葉の響きが好き」だと感じ、読みに行かせて頂いた作品でした。
タイトルと、番外編用テンプレートのタイトル部分の透明な海を思わせる色合いから、「きっと海がたくさん出てくるんだ!」と、勝手な想像をめぐらせていたのですが、冒頭の柔らかな緑の萌えていく描写で、一気に鄙びた村の一角に自分自身が立っているような感覚を覚えました。
短編という短い枠組みの中で、一つの世界の世界観や登場人物のキャラクターを伝えていくのはとても難しいことなのだと思いますが、この作品では、キャラクターの小さな動きや言葉の中でそれらがとてもさりげなく表現されていて、『番外編』という枠を感じることなく、とてもスムーズに、そしてとても魅惑されながら読み進め、読み通し、そのままシリーズ本編への興味へと繋がっていきます。そういった、『本編への導入としての番外編』という役割を担いつつも、作品の中にちりばめられた親子の会話とふれあいが、作品の魅力として存分に表現されているように感じました。
私自身は「オンナノコ」でしたから、作品中のような父と息子の関係を実際に自分自身で体感したことはありません。しかし、兄と父とを見て、幼いながらに「男同士ってズルイなぁ」と思っていた親子関係を思い出し、作品中の厳しさを内包した優しい関係がほほえましいと同時に、羨ましくもありました。
幼いながらも『自分』という自我を持ちはじめ、自分を取り巻く世界への興味を持ち始めた主人公の少年が聞く父親の話が、いったいどんなものなのか。優しく厳しく少年を見つめている父親が、かつてどのような日々を過ごし、その中でどのように生き、成長してきたのか。そして、それを聞いた少年はどのように成長していくのだろうかと、まだ見ぬ物語の中を想像したくなります。
父の話を聞いた後の少年の成長と変化を教えてもらいたくなる、そんな作品でした。
2001年02月11日
平原<Heigen> [ ファンタジー | 長編 ]
Deco著 【kanan】
成長の物語だと思う。成長の物語を描くのは難しい。読者とは年齢も性別も考え方も違う多種多様なもので、当然、深い共感を与える作品は同時に深い拒絶をも与えかねないからだ。そんな中で、この「平原<Heigen>」はより多くの読者に共感を与え、時に存在する拒絶をも「でも、人生ってそういうものだよね」と納得させてしまえる作品だと思う。
最初に文章を読み始めた時、面白い構成だなと思った。序盤は登場人物のポートレートとも言えるような構成で、それは、一枚の大きな紙に鉛筆でゆっくりと一人ずつ描かれていく過程を眺めているようだ。ラフな下絵に次第に色が塗られ、不意に人物が鮮やかさを増した途端に、物語は前に進み始める。そして、彼らとの別れもまた、ゆっくりと色が消え、その紙の中にある「平原<Heigen>」の世界から他の場所へ旅立っていく。不思議と私の中で、その旅立ちに悲しみや不満がない。ただ、「そうあるべきだ」とも感じられる必然が、私の中にある。
ただ唯一私の中で悲しみがあったのは主人公『剣』の対比者として登場する『春水』だろうか。それは『春水』の美しさや立場に惹かれたのではなく、「平原<Heigen>」が『剣』の物語である以上、彼に与えられたスペースが彼を語るには少なすぎたからだ。
「平原<Heigen>」は剣という一人の青年(実際は『猫』なのだが)を軸として、多種多様な立場と考えをもった登場人物達が織り上げる闘争の物語だ。
『闘争』なんていう言葉を使うと物騒かなという気になってしまうけれども、それ以外に私には明確な言葉が出てこない。彼ら登場人物は全員、生きること、死すること、愛することへの闘争を繰り返す。彼らは漫然と『生きている』状態ではなく、常に能動的に生きようと欲し、愛そうと欲し、その欲求のためならその代償が死であってもひるむことはない。その姿は、日常の私達にもある一面ではあるけれども、私たちは多くの物のに縛られすぎていて、平原の住む彼らのように純粋に生きる事が出来ない。
私は、闘争の物語が好きだ。――というか、物語を読み進め読解していく作業中に、『闘争』という生き物が潜在的に持っている一つの自己発現の形を当てはめて、読み解いていくことが好きなのかも知れない。
私は炎を長時間見つめつづけた事がある。不思議なもので、炎というものは見つめているうちに何か厳粛で不可思議な、突き放され自分自身に否応なく考えをめぐらせずにはおかないような、そんな気持ちになる。矢継ぎ早に問い掛けられる。それは私自身に問い掛けられる最も原始的な質問だ。
――お前は闘っているか。
まるで、初めて火を使うことを覚えた原始の民のように、炎そのものが一つの意志をもっているかのようにさえ思える。試してみるといい。部屋を暗くして、ライターを灯してじっと炎を見つめてみると、嫌でも何か問い掛けられる。その問いは、おそらく、生きていく上で一番譲りたくない自分の生き方の根本に対する問いかけか、今、一番心を悩ませている問いかけだろうと思う。
そう、私にとって生きることは『闘争』である。でかい壁にぶち当たって砕け散っては復活し、また性懲りもなくぶち当たって行くのが私の生き方で、それが私の本質なので、私の問い掛けは常に「闘っているか」というものなのだ。
「平原<Heigen>」はそういう炎を見つめる物語だ思う。冒頭と最後に出てくる『篝火』は、彼らの社会の中心であり祭事の中心であると共に、彼らの魂の中心にある。そこに炎が燃えている限り彼らは死なないし、彼らの暮らしは絶えないし、彼らの世界も終わらない。「平原<Heigen>」はそういう物語だ。
私的ツボ度:★★★★★
Posted by 風間 at 00:00 | TrackBack (0)2000年12月28日
ブレインシュガー [ ファンタジー | 長編 ]
秋月玲著 【充電中】
最近、ネット活動が縮小気味(創作は下火ではないけれども)なので、喝を入れる意味合いでも取り上げさせてもらった。(←この言い方、偉そうでヤナ感じだな/笑)
この作品は原稿用紙換算で250枚である。これくらいの長さのものは読み応えがあるので私はかなり好きなのだ。現在、様々な携帯機器が発売されていて、通勤通学のちょっとした時間にもオンライン小説が読めるので、是非とも長い作品にも食指を伸ばしてもらいたいなぁ。(私はそんな最先端のものを持っていないので、地道にオンライン読みだけれど)
さて、この作品はジャンルで分ければロボットアクション物である。ガンダム世代はたぶん、作品の中のロボット関連の描写に思わずモビルスーツが頭の中を飛んだりするだろう。
オンライン小説を分類するに当たって、ジャンルとか長さとか一般的な分類方法があるが、別の角度から分類してみたい。「小説そのものを楽しむべき小説」と「小説世界そのものを楽しむべき小説」の二種類である。
私としては「小説そのものを楽しむべき小説」の範囲に「小説世界そのものを楽しむべき小説」が完全に内包されていて欲しいと思う。そして、後者には各種設定や用語解説、風土解説など世界観そのものをリアルに感じられるコンテンツなども用意して欲しいと願ったりする。(ファンタジー系は間違いなく多くが後者に分類されるだろう)
この作品は私にとって後者に入る作品である。なので、用語解説なども一緒に掲載されているともっと幸せだろうと思う。(用語解説自体は私は見た事がある)
オンライン小説に限らずロボットアクション小説というものは、アニメや漫画のロボットアクション作品の数に比べて極端に少ないように感じられる。何故だろう。――たぶん、ロボット特有の部品や動き、描写に必要とされる機器等があまりにも文字ベースにすると多くなってしまうのが原因なのではないかと思う。航空機のコックピットの機材スイッチの数を思い出してみるにつけ、あれに匹敵するか上回る数のモニターとスイッチが存在すると考えると、ちょっとぞっとする。
アニメや漫画は視覚的で直感的なので、内容を理論的に説明する必要がないのだろう。少年のロボット物に対する愛着を考えると、そうとでも考えないと量の少なさが説明できない。(笑)
そういう意味ではこの作品は非常に成功している例だと思う。アクションシーンは若干アニメ的描写に偏りがちな印象はあるが、多少分らないところがあっても雰囲気で読み進められる部分がある。ただ、アニメ的になってしまったが故にキャラクター性のプロポーションに若干の物足りなさがあったり、書き込みに不足を感じたりもする。あまりキャラクター物という印象を強くしなかった事が救いだろう。
かつてロボットアニメを見て興奮して、おもちゃを買ってもらったような人にはお勧めな小説である。
厳密に言うと、内部の医療関係の描写について、多少時代錯誤の感がある。だが、そういう細かい読み方ではなく、単純にアニメ的に楽しんでもらいたい作品である。
私的ツボ度:★★★★☆
Posted by 風間 at 00:00 | TrackBack (0)月下残影 [ ファンタジー | 長編 ]
琴乃 つむぎ著 【THE GREAT GAME 言紡師の書斎】
時間が出来しだい読むと自分に約束していた作品である。(笑)
拙宅に設置してあるこっそり隠したお絵かき掲示板に、「TEAR DROP.」のzero-zeroさまがこの作品の主人公である「ミルイヒ」の肖像を描かれた際に「オンライン小説界一根暗な主人公」と書かれていたが、なるほど、確かにそうかも知れないと思わせられる部分があった。その際に「ダメ男ちゃん」なのだと作者ご本人が言われていたが、確かにそれも頷けた。(笑)
舞台背景は中世〜近世的だが、その時代感を押し付けるような不用意な舞台描写等はなく、文体は比較的軽めなので、多くの方に愛される作品なのではないだろうかと思う。ジャンルは――恋愛…とはちょっと違うような気もするが、メインで語られるのは恋の心の動きと駆け引きである。
恋愛モノという一括りの中に入れるには、それ以外の剣技等のアクションシーンが冴えているので、自分としては少し軽めの中世アクションをベースに恋(愛ではない)が語られる話、というジャンルを作って納めたい感じだ。(こんなジャンルを作っていたら世界は膨大なジャンルで埋め尽くされるだろうな/笑)
小説の感想を書く前に是非とも最初に言っておきたいこと。
このサイトで小説を読んだら、他のサイトの管理者がどれだけ「見せる」とうことにこだわっていないかが分ります。(ある意味、うちのなんて最悪かもしれん/笑)
とにかく読みやすい。オンラインではこの「読みやすさ」というのも重要なファクターの一つだと思う。単にモニターに向かっているだけでも目は疲れるが、更に追い討ちをかけるように見難いほどの小文字や行間は使うべきではないのだよね。(←…耳が痛い/笑)
さて、(ようやく)感想に移ろう。
恋愛のじれったさというものをほとんど知らない私(別に恋愛経験がなかった訳ではない。事実ちゃんと私には旦那が居る。単に私の性格的な問題なのである)なので、なんだか読んでいて、不思議な感動を覚えた。そうか、恋愛ってじれったいものだったんだと、いうある意味当たり前なことなのだが、私にとってはしばらく忘れていたことを思い出したような気がしたのだ。
でも、もしかしたらこの作品は恋愛を中心にしないほうがもしかしたらもっと面白かったのかもしれないと思う。アクションが冴えているからだ。(あとで作者の好きな小説の中に「三銃士」と「燃えよ剣」があるのを発見して妙に納得した)そして、恋愛小説としては、その恋愛に重要であろうお互いの印象に対する説明が詳細なのだが、どこか足りないように感じられてならなかったのだ。描写はされているのだが、動機が弱い印象が拭えなかった。(私は運命的な、お互いにだけ感じられる相手の本質なんてモノを信じる事が出来ない、現実主義者なのであろう;)逆に、冴えたアクションを縦軸にし、その箸休めとして恋愛を描いた方が、文章の勢いにも似合っていたような気がする。
他の方から寄せられている感想を見ると、多くの方が恋愛方面に注目されているが、この作品は主人公の恋愛と「切り裂き魔」との戦い(というか追跡というか)が二つの軸になっていて、この二つの問題を経て主人公が成長する話のように私には感じられた。単に恋愛の過程を楽しむのではなくて、それによってどう変化していくのかという話だ。
私は恋愛は闘争だと思っている。(そんなことを思っているから、じれったさを微塵も感じないのだ/笑)
闘争というものは勝たねば意味がないものではない。勝たねば意味がないのは勝負の話である。闘争はその過程から生じる自己の変革が重要な問題なのであって、その結果としての勝利にはそこまで重要性はない。実際、変化のためには負けたほうがいい事だって、世の中にはたくさんあるのだ。
主人公はこの二つの闘争の中に居る。そして、ある接点でこの二つの闘争が繋がる。――そう、繋がってしまうのだ。
私にはこれが勿体無いように感じられてならなかった。
アクションシーンは冴えている。好きだ。キャラクターの心情も滑らかに描かれていてとても分りやすい。作者は本質的にはコメディタッチの人なのかもしれないなと思ったのだが、流れる文体の中で突然タッチが変わることがあるので、シリアスに読み進めたい場合は注意が必要かもしれない。私はこれくらいの遊びは好きだけれども。
そういえば、この作品の番外編も読みたくて質問事項に全問正解したのだが、何故かページに進めなかった。(パスワードがかけられているのだ)――なんだかちょっと切なかった。(T-T)<後日、読めました^^
私的ツボ度:★★★☆☆
Posted by 風間 at 00:00 | TrackBack (0)