2003年08月28日
思い出に降る雨 [ 「その花の名前は」番外編 | ファンタジー ]
ファランドール 番外編
東條 トモ 著 【SAKURA Pearls】
前回の更新同様、作品一覧ページを眺めていて、「タイトルの言葉の響きが好き」だと感じ、読みに行かせて頂きました。
柔らかな一人称の語り口で紡がれる言葉は、内面描写に富み、言葉を目で追っていくだけで、語り部である人物の心の傍に寄り添っていく感覚を覚えます。
短編という枠組みの中の作品ですが、『本編のある作品の番外編』であるからか、世界観がすんなりと頭に入ってきて、この短編の先にある物語はどんな物語なのだろうかと、非常に興味をそそられました。なによりも、語り部となっている人物に共感することで、彼の未来を自分自身も見たいと、そう思ってしまうように感じます。
『思い出』という、すべての人が持っている、幾分か切ない響きを持つ記憶は、対象が大切なものであればあるほど、消えたり失くしたりはできないものです。大切なものを失くしてしまった過去は誰にでもあるもので、だからこそ、大切なものを失くしてしまったこの作品の語り部である彼の気持ちが、自分自身の過去の思い出と共感しあうのであろうと思います。
何かをなくしてしまって悲しい――そこで立ち止まるのではなく、静かに前を向いて歩いていく彼の姿は、とても尊いもののように感じます。
彼の未来がどうぞ幸せなものでありますようにと願いながら、本編の扉を開きたくなる、そんな作品です。