2003年06月19日
忘れじの海 [ 「その花の名前は」番外編 | ファンタジー ]
ガーラント物語シリーズ 番外編
桜川 夏 著 【幻影樹】
作品一覧ページを眺めていて、一番最初に「あ、タイトルの言葉の響きが好き」だと感じ、読みに行かせて頂いた作品でした。
タイトルと、番外編用テンプレートのタイトル部分の透明な海を思わせる色合いから、「きっと海がたくさん出てくるんだ!」と、勝手な想像をめぐらせていたのですが、冒頭の柔らかな緑の萌えていく描写で、一気に鄙びた村の一角に自分自身が立っているような感覚を覚えました。
短編という短い枠組みの中で、一つの世界の世界観や登場人物のキャラクターを伝えていくのはとても難しいことなのだと思いますが、この作品では、キャラクターの小さな動きや言葉の中でそれらがとてもさりげなく表現されていて、『番外編』という枠を感じることなく、とてもスムーズに、そしてとても魅惑されながら読み進め、読み通し、そのままシリーズ本編への興味へと繋がっていきます。そういった、『本編への導入としての番外編』という役割を担いつつも、作品の中にちりばめられた親子の会話とふれあいが、作品の魅力として存分に表現されているように感じました。
私自身は「オンナノコ」でしたから、作品中のような父と息子の関係を実際に自分自身で体感したことはありません。しかし、兄と父とを見て、幼いながらに「男同士ってズルイなぁ」と思っていた親子関係を思い出し、作品中の厳しさを内包した優しい関係がほほえましいと同時に、羨ましくもありました。
幼いながらも『自分』という自我を持ちはじめ、自分を取り巻く世界への興味を持ち始めた主人公の少年が聞く父親の話が、いったいどんなものなのか。優しく厳しく少年を見つめている父親が、かつてどのような日々を過ごし、その中でどのように生き、成長してきたのか。そして、それを聞いた少年はどのように成長していくのだろうかと、まだ見ぬ物語の中を想像したくなります。
父の話を聞いた後の少年の成長と変化を教えてもらいたくなる、そんな作品でした。